2021年(令和3年)11月29日 朝日新聞より
日ごろの暮らしの中で政治に対して思うことを語り合おう――。そんな「私たちの政治カフェ・日野」が毎月第2土曜日、日野市で催されている。政党や選挙にこだわらず、コーヒーカップを片手に、地球温暖化や国のリーダー論など様々なテーマを取り上げる。どんな人たちが参加しているのか。(高田誠)
楽しく、時には激しく意見が交わされる「私たちの政治カフェ・日野」=9月、いずれも日野市
「政権交代はたやすくない」「憲法が改正できる良いタイミングだ」「将来を考えた政策論争がなくて残念だった」――。
衆議院選挙から2週間ほどたった13日の政治カフェ。代表世話人の林幹高さん(78)の進行でメンバーがテーブルを囲んだ。
60~70代中心の10人弱。NPO法人「福祉カフェテリア」理事長の林さんはじめ、政治に直接関係していない市民が集まる。 ふるさと納税など気になる問題を提起し、議論が始まる。いつのまにか直近の政治の話に。「いろんな考え方の人がいておもしろい」と林さん。参加者は菓子を持ち寄るなどこの日を楽しみにしている。
林さんは精密機械メーカーの社員だった。医療機器の設計や営業に携わり、疑問が浮かんだ。「医療技術が進んでも、人間は幸せになれるとは限らない」。50歳で退職、福祉を3年間学び、福祉用具の店を開き、「福祉カフェテリア」を立ち上げた。デイサービスや高齢者宅に食事の宅配などの事業を展開する。
政治に声を上げるきっかけは2015年の安全保障関連法の議論。自衛隊の海外での武力行使の容認に国民から様々な意見が出る中、成立した。林さんはそれまで政治とのかかわりは避けてきた。だが福祉の分野も政治とは無縁でいられない。「政治を他人任せにしない」と考えを改め、「政治について知り、学び、考え、行動するきっかけとなる場になるように」とこの年の秋に政治カフェを始めた。
ふだんはお年寄りの福祉に携わる、林幹高さん
参加者の一人、宮沢時子さん(86)は9月のカフェで、「政治家はあいまいな言葉で逃げ、問題の重要性を軽く受け止めている私たちがいる」と発言した。
戦争体験が発言の原点だ。1945年3月未明、江東区亀戸に住んでいた宮沢さんは空襲警報で家族とともに近くの公園に逃げた。 国民学校3年生ぐらいだった。翌朝、防空壕から出ると、黒焦げの遺体がツルハシで引っ張られ、焼け野原に積まれて焼かれていた。川にも遺体が重なっていた。「どう生きればいいのか」と子どもながらに思ったという。
戦後、看護師となり、いまも障害者の健康管理などに携わる。「政治家は戦時中、国民に真実を知らせず、命令1本で動かした。国民も本音を語れずにいた。その怖さを知るからこそ声を出したい」
出版社社員だった金子凱彦さん(76)は政治カフェに参加するために調べ、反対意見を聞き、考えを 深めることが楽しいという。
65年に大学に入学後、デモに参加し、団結すれば社会を動かすこともできると実感した。一方でデモを阻むようにずらりと並んだ警察車両に「権力の圧倒的な強さを見た」。また過激派に「大衆に根ざさない運動は自滅する」と悟った。
政治カフェで、「現代の政治に強いリーダーはいらない。話し合いが大事だ」と話した。だが国の新型コロナウイルスの対策を振り返り、「強いリーダーが必要だったか」と気持ちが揺れている。「みんなの意見を聞きたいと思う」
代表世話人の林さんは最近、SNSなどの普及に脅威を感じる。「だからこそ相手の顔を見て語り合う関係が大切だ」。若い世代にも「視野が広がり、人生がより豊かになりますよ」と参加を呼びかける。 来月11日で会は68回目となる。